江戸川乱歩賞と直木賞をW受賞した藤原伊織の『テロリストのパラソル』を読んで、そのハードボイルドな世界にすっかりやられてしまった私。すぐに他の作品も!と思って手に取ったのが、この『雪が降る』でした。

私は好きな本を何度も読み返すタイプ。本当は一番好きな藤原伊織作品である『テロリストのパラソル』を再読したかったのですが、友人に貸し出していて手元にありません・・・。

そこで、タイトルが今の時期にピッタリな『雪が降る』を再読。藤原伊織を読みたい気分だったのです。

『雪が降る』は、『台風』、『雪が降る』、『銀の塩』、『トマト』、『紅の樹』、『ダリアの夏』という六篇を収録した短篇集。これがまたどの短篇もいい。まさに珠玉の作品ばかり。

この中で、主人公のぼくが自分は人魚だという少女に出会う『トマト』だけはやや異色な雰囲気の作品だと思います。何と言うか、ちょっと村上春樹の短篇っぽい不思議ワールドになっているのです。

どれも好きなのですが、特に好きなのは表題作の『雪が降る』。

主人公の志村秀明は、食品会社の販売促進課課長。四十代で独身、離婚暦あり。志村と同期で友人の高橋一幸は、マーケティング部の次長。同期の中でも出世頭だが、嫌味なところなどない人望の厚い男。
ある時、志村の会社用パソコンに「雪が降る」というタイトルのメールが届く。

母を殺したのは、志村さん、あなたですね。なお、父は幸か不幸かこの事実を知りません。念のため。


発信者の高橋道夫は高校生になる一幸の息子。志村は道夫と会う約束をする。
そして、志村は道夫に何もかも正直に話します。道夫の母、つまり一幸の妻陽子との間に起きた出来事について・・・。

私は、陽子が志村に宛てて書いた送信されることのなかったメールの内容にグッときてしまいました。ちょっと綺麗すぎるストーリーかもしれませんが、これは何度読んでもいい。

それから、この作品の中でリバー・フェニックス主演の映画『旅立ちの時』の話がチラッと出てくるのですが、それがとても懐かしかったです。

もうひとつ、『雪が降る』と同じくらい好きなのが『台風』。

この作品の主人公吉井卓也も四十代のサラリーマン。他の課に異動になった吉井の元部下が上司をカッターナイフで刺して重傷を負わせるという事件が起きる。そのことから、吉井はかつて出会っただひとりの殺人者について思い出す・・・。これはラストの3行で思わずあっと言いそうになります。今回、再読なのに忘れていて、またあっと思っちゃいました。とても素敵なラストなのです。

実はもうひとつ『紅の樹』、これも好きです。主人公は元ヤクザで今は塗装工の堀江徹。今も組織から身を隠して生活をしている堀江が暮らすアパートの隣の部屋に訳ありな感じの母娘が引っ越してくる・・・というストーリー。これは、この短篇集の中では一番ハードボイルドな感じの作品。好き嫌いが別れそうだけど、私は主人公堀江のストイックなところにしびれました。



再読したことで私の中で藤原伊織熱が再燃したので、今度他の新刊文庫とあわせていずれ読もうと思っていた『てのひらの闇』も一緒にアマゾンで買おうっと。
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