村上春樹の『神の子どもたちはみな踊る』は、『新潮』の連載『地震のあとで』の5作品(『UFOが釧路に降りる』、『アイロンのある風景』、『神の子どもたちはみな踊る』、『タイランド』、『かえるくん、東京を救う』)に書き下ろし作品『蜂蜜パイ』を加えた6つの作品を収録した短篇集です。

どの作品にも1995年1月に起きた阪神大震災の影がちらついています。と言っても、そこには絶望など暗い闇が広がっているのではなく、ほとんどの短篇が最後にははっきりとではないにしろ、かすかな希望を感じられるものになっていると思います。

6つの短篇の中で私が好きなのは、二月の海の浜辺でいつものように焚き火をしながら順子と三宅はぽつりぽつりとお互いの事を話しだす『アイロンのある風景』と、ある日片桐がアパートの部屋に戻ると、2メートル以上もある巨大な蛙が待っていて、東京を大地震から救うために二人でみみずくんと闘うのだと言いだす『かえるくん、東京を救う』、大学時代からずっと想いつづけた小夜子に気持ちを伝えられずにいた淳平。やがて小夜子は淳平の友人高槻と結婚、二人の間に沙羅という女の子が生まれるが、まもなく二人は離婚。淳平と小夜子の距離は縮まるのか・・・という『蜂蜜パイ』、この3作品が特に好きです。

『かえるくん、東京を救う』などは、いきなり巨大な蛙がやって来て、自分のことは「かえるくん」と呼んでくれなどと言い出す、この不思議ワールドがいかにも村上春樹っぽいし、どこか笑えるユニークさがあるところが好きです。それに、かえるくんのキャラクターがいい。

また、作品中に本や音楽の話が出てくるのも村上春樹作品を読む楽しみで、『アイロンのある風景』には焚き火つながりでジャック・ロンドンの『たき火』やジャック・ロンドンについての話がでてくるし、『かえるくん、東京を救う』のかえるくんはどうやらトルストイの『アンナ・カレーニナ』やドストエフスキー『白夜』、ヘミングウェイが愛読書のよう。

でも、私の一番のお気に入りはやっぱり『蜂蜜パイ』!村上春樹作品に登場する男性にしては珍しく(笑)一途で深い淳平の愛を応援したくなります。短篇集のラストを飾る作品としてふさわしい、爽やかな読後感で、私はこれまでに何度も読み返しています。

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