宮本輝は私にとって読書というものにどっぷりはまるきっかけとなった作家。もちろん著作の全てが好きという訳ではなく、私の好みはどちらかというと初期の作品に多い。どこか暗い影があるような作品になぜか惹かれます。

この『幻の光』もそう。表題作『幻の光』のほか『夜桜』、『こうもり』、『寝台車』の全4編が収録されています。

なかでも表題作である『幻の光』は、全体的に暗いトーンで描かれた作品なのですが、一番印象に残る、余韻がある作品。

ある日突然幼い息子と自分を残して自殺した夫。二十五歳という若さで後家になってしまったゆみ子はしばらくの間はラブホテルの案内係兼掃除婦の仕事をするが、やがて再婚話が持ち込まれ兵庫県の尼崎から奥能登の曾々木という海辺の町に嫁ぐ。新しい夫、民雄も妻を病気で亡くし、幼い娘を抱えての再婚だった。

再婚を決めたのは、ただただ前の夫との思い出が残る尼崎から遠く離れたかったから。再婚し、平穏な日々が続いてもゆみ子は、姿のない前の夫に語りかけるのが習慣になっていました。なぜ夫が自殺をしたのか、その答えはどれだけ問いかけてもかえってくるはずもなく。

しかし、ゆみ子は、なぜ前の夫が自殺してしまったと思うかと民雄に問います。すると、長い時間がたったあと民雄はぽつんと答えます。

「人間は、精が抜けると、死にとうなるんじゃけ」


この一言でゆみ子は、ひとつの答えのようなものを得ることが出来たのではないかと思います。ゆみ子が前の夫に話しかけるのは以前と変わないものの、新しい家族とのこれからの人生にようやく一歩を踏み出したようなラストに清々しい余韻が残りました。

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『幻の光』は江角マキコ主演で映画化されているですよね。一度観てみたいと思いながらまだ観ていません。

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