長嶋有の小説では『ジャージの二人』が1番好きなのですが、恋愛をテーマにしたものの中ではこの『泣かない女はいない』が断然好きです。

表題作『泣かない女はいない』と『センスなし』の2作品が収録されています。特に『泣かない女はいない』がいいんです。

埼玉県の郊外にある小さな会社の事務として働く睦美。睦美には一緒に暮らす恋人がいるのだが最近は何だかだらだらした関係になってしまっていた。そんな中、睦美は同じ会社で倉庫係の樋川のことが次第に気になるようになる。

主人公の睦美はどちらかというと地味な女性。会社の中でも他の女性社員と仲良くないわけではないのだけど、輪の中にいるよりは一人で居ることを好む、そんなタイプ。忘年会では社長に「君は少しおとなしいから、こういうときに仲良くなるチャンスを逃しちゃ駄目だ」なんて言われてしまうくらい。

日常では恋人との仲がうまくいかなくなったり新しい恋をしたり、仕事では会社でリストラが始まったりと睦美の周辺にはそれなりに波風がたってはいますが、感情をあらわにしない睦美というキャラクターのせいかとても淡々とした作品になっています。

ですが、例えば忘年会の二次会で行ったカラオケで歌ったボブ・マーリーの『NO WOMAN NO CRY』の曲名を聞かれた樋川が「泣かない女はいない」とぶっきらぼうに答え、それを聞いていた睦美が帰宅するとすぐにボブ・マーリーのCDから歌詞カードを取り出し歌詞を調べる。この睦美の取った行動ってすごく分かるなぁってしみじみ思ったり、あとは仕事を終えた睦美と樋川が駅までの道を二人で歩く場面。鉄の壁沿いに続くキン肉マンのキャラクターの落書きを睦美が順に指しそのキャラクターの名前を樋川が答えるという本当に何でもない場面なのですが、なぜかとても印象に残っています。

決してガツンとくるものはないけれどひとつひとつの場面がこういう風に積み重なっていく・・・そういう作品。最後はしんみりしてしまうけど、でも好きです。

ちなみにもうひとつの『センスなし』は聖飢魔Ⅱのファンだった女性が主役という、いかにも長嶋さんらしい作品。

それにしても、長嶋さんはなぜこんなにも自然に、女性の微妙な心理を描くことが出来るんだろう?樋川をはじめとする男性たちよりも睦美やパートのおばさんの方がよりリアルに感じられるから不思議です。

泣かない女はいない (河出文庫)
長嶋 有
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ボブ・マーリーのアルバム。
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