近藤史恵さんの名前は知っていましたが、作品を読むのはこれが初めて。文庫の帯には「大藪春彦賞受賞」とか、「第五回本屋大賞第2位」とか大きく書いてありますが、それは作品を選んだ理由ではありません。ただ、扱われているテーマが私好みだったというだけ。

そのテーマというのが、自転車ロードレース。別に私は自転車ロードレースが好きというわけではありません。むしろこの『サクリファイス』を読むまで、興味を持ったことすらありませんでした。ただ単にスポーツ物の小説が好きなのです。


サクリファイス (新潮文庫)

『サクリファイス』の主人公白石誓は、プロのロードレースチーム、チーム・オッジに所属する新人選手。高校時代の誓は陸上の中距離走でオリンピックも狙えると言われていたのだが、誓にとって走ることは苦痛でしかなく、だた周囲の人の期待を裏切らないために走っていたようなものだった。
そんな誓がたまたまテレビで放送していた自転車ロードレースを見て、その世界に惹かれロードレースの選手になることを決意。そうして今に至る。

チーム・オッジのエースは日本を代表する自転車選手でもある石尾豪。石尾は峠を得意とするクライマー。
誓と同期の伊庭和実は新人ながらチーム・オッジでは既に石尾の次に位置するほどの実力の持ち主で平坦コースを得意とするスプリンター。伊庭は一匹狼で周囲に敵を作りやすい性格。
チーム最年長の赤城はエース石尾の忠実なアシスト。

この小説を読んで初めて知ったのですが、ロードレースにはエースとアシストという役割分担があって、アシストの選手はエースを勝たせるために走るのです。

誓は石尾と伊庭を自分よりも優れた選手であると素直に認めていて、自分はエースになるよりもアシストが向いていると感じています。一方の伊庭は今は苦手なヒルクライムも克服していずれは石尾を抜いてエースになることを狙っている。同じ新人でも二人の考えは対照的。

チーム内でも伊庭が石尾のエースの座を脅かす存在であることは明白。しかし、赤城は「豪は自分以外のエースを認めないよ」と言う。篠崎もまた「石尾さんは怖い人だ。」と言う。
そして誓は篠崎からかつて石尾の斜行が原因で大怪我をし、下半身不随になった選手がいたという話を聞く・・・。

アシストに徹していた誓だが思いがけずステージ優勝し、注目を集めるようになる。さらに海外のチーム、サントス・カンタンが日本人選手を欲しがっているという話を聞き、誓は本場で走りたいという思いを強くする。

誓は篠崎から聞かされた石尾の話は、故意ではなく事故であったと信じたいと思う一方、レースでの勝利に強い執念を見せる石尾の姿を間近にすると「もしかして・・・」という疑念を抱いてしまう。

そんな中、とうとう事故が起きてしまう・・・。

『サクリファイス』はミステリー小説であり、青春小説、スポーツ小説でもあります。私はミステリー要素はスパイスのようなもので、青春&スポーツの部分に魅力を感じました。

特にレースシーンが熱くてカッコいい。レース中石尾が誓に「白石、食らいついてこい」と言うところとか、しびれます!

他に印象に残った箇所を以下に引用します。

石尾さんはまだ笑っている。楽しくて仕方がないような顔に、背筋がぞっとした。
怖い、とすら思う。だが同時に考える。
これこそがエースの走りだ。ぼくなんか逆立ちしても敵わない。


汗みずくで必死にペダルを踏んで、あいつを勝負所まで連れていく。俺のペダルを踏む力がちょうど限界になったとき、あいつは俺を置いて飛び出していくんだ。まるで翼が生えたみたいな足で、楽々とさ。その瞬間の爽快感ときたら・・・・・・


ロードレースについては何の知識もなかったのですが、この小説を読んでその面白さを少し知ることが出来た気がします。三浦しをんの『風が強く吹いている』を読んで走りたくなったように、『サクリファイス』を読んだら自転車に乗って坂をのぼりたくなりました。もちろん実際にはしませんけど(笑)

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近藤 史恵

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3月には続編『エデン』の単行本も発売されたみたいですね。文庫化されたら絶対買って読みます!

さらに伊坂幸太郎、有川浩など色んな作家が参加しているアンソロジー『Story Seller』、『Story Seller〈2〉』に『サクリファイス』の番外編ともいえる作品が収録されているみたいです。この文庫気になるなぁ。
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