『花のあと』に続いて藤沢周平の『本所しぐれ町物語』を再読。

本所しぐれ町物語 (新潮文庫)

『本所しぐれ町物語』は、江戸にある架空の町、しぐれ町を舞台にそこに住む町人たちの日常を描いた連作長編で「鼬の道」、「猫」、「朧夜」、「ふたたび猫」、「日盛り」、「秋」、「約束」、「春の雲」、「みたび猫」、「乳房」、「おしまいの猫」、「秋色しぐれ町」という12章から成ります。

何年ぶりかでの再読なので、これまた内容をきれいさっぱり忘れていました(汗)。でも、そのおかげで楽しめました。

各章によって主役が入れ替わるのですが、ある章では主役の人物が別の章では脇役として登場する・・・というようにリンクしています。

ほとんど全ての章に登場するのが裏店を差配する大家の清兵衛。清兵衛は隠居仕事のように自身番で町役人勤めをしていて、大抵は同じく自身番で書役をしている万平としぐれ町の住人の噂話をしているのですが、時には裏店の住人同士の揉め事を解決したりもしています。

12章の中で私が特に面白いと思ったのは「猫」、「ふたたび猫」、「みたび猫」、「おしまいの猫」。タイトルを見たら分かるようにこの章に関しては主役が同じで、まるで連作短篇のようになっています。

主役は小間物屋紅屋の息子栄之助。栄之助は根っからの女好き。その女道楽がたたり、とうとう女房が子供を連れて実家に戻ってしまった。しかし、それにも懲りず他の男の妾に手を出すという、どうしようもない男。栄之助は、「猫」で妾のおもんが飼っている三毛猫をきっかけにしておもんに声をかけるのですが、この猫がポイント。

その後の「ふたたび猫」、「みたび猫」、「おしまいの猫」でも猫が重要な役割を演じます。例えば「ふたたび猫」では、栄之助の女房のおりつが実家から戻って来るのですが、その紅屋に客を装ったおもんが猫を抱いてやって来ます。すると、おもんの手から離れた猫が帳場に座っている栄之助の所へやって来て・・・という感じで、何も語らなくても猫の動作で全てが分かってしまうのです。

他では「春の雲」が好きです。まだ十五と若い桶屋の奉公人千吉の純粋で真っ直ぐな初恋を軸に描かれており、読後感が爽やか。
千吉が想いを寄せるのは、一膳めし屋の亀屋で働くおつぎ。ところが、昼めしをおごってやるという臨時の職人佐之助を亀屋に連れて行ったことで、おつぎと佐之助が付き合い始めてしまう。
実は、この佐之助があちこちで女を泣かせている悪い男で、そのことを知った千吉はおつぎに忠告するのだが、相手にされない。もう勝手にしろと思う千吉だったが、やはりおつぎが不幸になるのを見過ごすことが出来ず・・・という話。

自分の後をつけてくる千吉に気付いた佐之助が「誰に頼まれた?与次郎かい」と言うのですが、ここでは与次郎って誰?と思うのですが、この後の「乳房」に出てくる与次郎の正体を知って、おつぎはかなり危ないところだったんだと分かりました。

「乳房」はかなりドキッとする話。仕事を終え、家にいるであろう亭主の信助のためによもぎの餅菓子を買って帰るおさよ。めずらしく仕事が早く終ったこともあって、いつもより気持ちがはずんでいたおさよが信助を驚かせようと、足音をしのばせて家に入ると、そこには信助と子持ち後家のおせんがいて・・・。

要するにおさよは亭主の浮気現場を目撃してしまったのです。しかも相手は同じ裏店に住む女で三十を過ぎた子持ち後家・・・。裸足で家を飛び出したおさよに優しく声をかけてきた男が与次郎。この与次郎の正体を知ったおさよは震え上がります。すっかり与次郎に目を付けられてしまったおさよ。そんなおさよを最後に救ってくれたのが・・・。

最後の「秋色しぐれ町」は総集編っぽい話で、これまでの登場人物たちのその後がそれとなく分かるようになっています。

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藤沢 周平

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やっぱり藤沢周平の小説好きだなぁ。

文庫の巻末には藤沢周平・藤田昌司の対談「藤沢文学の原風景」が収録されています。藤沢さんがどんな思いで『本所しぐれ町物語』を書いたのかが分かる、なかなか興味深い内容になっています。
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