藤沢周平の『花のあと』が映画化されたというのを知って、何だか久しぶりに読みたくなって本棚から文庫を引っ張り出しました。

花のあと (文春文庫)

『花のあと』は短篇集で、表題作『花のあと』は一番最後に収録されているのですが、せっかくなので最初から全部読みました。

収録されているのは、『鬼ごっこ』、『雪間草』、『寒い灯』、『疑惑』、『旅の誘い』、『冬の日』、『悪癖』、『花のあと』の八篇。

随分久しぶりの再読なので、すっかり内容を忘れてしまっていました。でも、そのおかげで最初の『鬼ごっこ』から新鮮な気持ちで読むことが出来ました。

『鬼ごっこ』は、かつて盗っ人だった吉兵衛が、裏店に囲っていた元女郎のおやえを何者かに殺され、その仇討ちをするという話。
おやえを殺した犯人を捜しながらも、盗っ人という過去を持つ吉兵衛自身も十手持ちの影に怯えている。それでもおやえの仇を討とうと、おやえが働いていた飲み屋、岡場所などに聞き込みをし、犯人らしき人物を突き止めます。
最初は十手持ちに怯える意気地のない隠居じいさんだと思われた吉兵衛が、最後にはおやえを殺した犯人に向かって「おめえ、おれの女を殺しやがった。ただじゃすまされねえ」と言い放つのがかっこいい!時代小説でありながら、ハードボイルドな雰囲気が漂う作品で、私は好きです。

『雪間草』は、『花のあと』にどこか似た雰囲気の作品。今は尼寺で商人の娘たちに手習いを教えながら暮らしている松仙だが、かつては信濃守勝統の側妾として寵愛を受けていた。
城に召される前の松仙には服部吉兵衛という許婚がいた。その服部吉兵衛が、勝統の怒りを買い、腹を切らされるかもしれないと知った松仙は、勝統に吉兵衛の助命を訴えようと江戸に行くことを決める。
この松仙が、柔術の達人で、男勝りの力持ちという設定が面白い。殿の側に上がる前にせめて許婚の吉兵衛との別れを惜しもうとする女心をまるで解さない吉兵衛の態度に腹を立てた松仙が、力をこめて吉兵衛の手をにぎり、吉兵衛の顔が痛さでみるみる真っ赤になる場面などはどこか笑えます。そして、松仙はその柔術と力を上手く利用して勝統に吉兵衛の助命を認めさせるというのも面白い。

その他、姑のいびりに我慢が出来ず家を飛び出し、再び料理屋の酌婦に戻ったおせんの元に夫の清太がやって来て風邪をひいた姑の看病を頼む『寒い灯』、蝋燭商河内屋に賊が入り主人が殺されるという事件が起き、目撃証言から勘当された河内屋の元養子が犯人であるとあっさり判明するのだが、定町廻り同心の孫十郎はどこか引っかかるものを感じていた『疑惑』、東海道五十三次で絵師としての名を挙げはじめた一立斎広重を描いた『旅の誘い』、寒さにこらえきれず偶然入った飲み屋で働いていた厚化粧の女。清次郎は家に帰った後、それが幼なじみの“いっちゃん”だと気付く『冬の日』、勘定方の役人渋谷平助。平助は算盤が達者で能力はあるのだが、酔うと人の顔をなめるという奇癖があった『悪癖』など、どれも面白く秀作揃いの短篇集。

そして、最後に表題作『花のあと』。祖母が孫を集めて昔語りをするという形式で物語が展開していく。

十八の娘だった以登は女ながらに剣の腕は確かで、道場の高弟二人と試合をして勝つほど。そんな以登が、花見を終え帰り支度をしていたところ、剣名高い江口孫四郎に声をかけられる。その場ではほんのわずかに言葉を交わしただけであったが、以登は父に孫四郎と試合をしたいと頼む。
以登の願いが叶い、竹刀を交えることになった以登と孫四郎。孫四郎に敗れたものの、以登は試合の間、これまで感じたことのない恍惚とした気分になっていた。

しかし、以登には許婚がおり、孫四郎にもまた縁組みの話が進んでいた。その孫四郎の相手というのが、以登も知っている加世という娘だったのだが、以前から加世には妻子のある男との噂があり、以登は胸騒ぎを覚える。しかし、どうすることも出来ず、やがて孫四郎の縁組みが整う。

それから数年、孫四郎が自裁したことを知った以登は、許婚の片桐才助に協力してもらい、真相を確かめ、自身の手で孫四郎の仇討ちをしようと決意する。

たった一度だけ試合をした相手である孫四郎を長く思い続けた以登ですが、実は美人というわけではないのです。以登の外見について書かれた一文は以下のようなもの。

細面の輪郭は母親から譲りうけたものの、眼尻が上がった眼と大きめの口は父親に似て、せっかくの色白の顔立ちを損じている。以登は日ごろから大きめな自分の口を気にしていて、ひと前で笑うことはおろか、なるべく口のあたりが目立たないように面伏せに振舞うことを心がけていた。


映画『花のあと』でこの以登を演じるのは誰かというと、女優の北川景子さんです。美人過ぎじゃないですか?ただ、以登の許婚才助を演じるのが甲本雅裕さんというのはピッタリだと思います。

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映画化の話題で久しぶりに読み返した『花のあと』ですが、面白かったです。他の藤沢作品も読み返したくなりました。

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