堀江敏幸の『一階でも二階でもない夜 回送電車Ⅱ』読み終えました。

一階でも二階でもない夜 - 回送電車II (中公文庫)

相変わらず仏文学や美術など私自身関心の薄い散文を読むのに時間がかかってしまいましたが、堀江さんの静かでどこか温かい文章が好きなので、じっくり時間をかけて読みました。

54篇の散文の中で特に印象に残ったのは、まずは一番最初の『静かの海』。収録された散文の中では長めのもの。

夜の公園のベンチに腰をかけた筆者。そこへ高校生らしき男女が十数人やって来て、サッカー厳禁と注意書きのあるその公園で突如サッカーを始めるというもの。
筆者は若者たちに「ちょっと観戦していいかな?」と声をかけ、公園の外を走る車のライトと街灯を頼りにしたゲームを静かに見守ります。

ただそれだけと言えば、それだけなのですが、読んだ後も余韻が残るような作品でした。

表題作『一階でも二階でもない夜』は、ビルの二階にあるはずの待ち合わせ場所を探す筆者。顔をあげて探してもそれらしき店が見あたらない・・・。
実は、その店は坂の途中に建っており、筆者が一階だと思っていた部分が二階だったという話。

そこから『一階でも二階でもない夜』というタイトルがつくというのがセンスがよいというか、流石といった感じ。

『断ち切られた夢 須賀敦子さんを悼む』は、タイトル通り筆者が亡くなられた須賀敦子さんを悼んで書いた文章。
この文章を読んだら何だか改めて須賀さんの本が読みたくなりました。須賀さんの作品はまだ『ヴェネツィアの宿』しか読んだことがないので。

『帽子を取って抱けばいいのに』は、フランスにいた筆者が凱旋門賞のポスターを見て、無性に競走馬が見たくなりロンシャン競馬場に競馬を観戦しに行った話で、競馬好きな私には楽しい話題。
とはいえ、ページ数にしてわずか3ページの短い文章で、凱旋門賞のレースに関する描写があるわけではないのですが。

その日は帽子着用の女性は入場料無料ということで、筆者のすぐ前に座ってい黒いドレスの女性も黄色い帽子をかぶっており、隣の同伴者が女性にキスをする度に帽子についた針金状の飾りが彼の耳たぶや鼻先をくすぐっていた。
筆者がその様子を気にしているうちにレースがどんどん進み、結局メインレースである凱旋門賞もあっという間に終わってしまった・・・という話。

日本馬の参戦を知ったのは出走十五分まえ。勝負服は、恋人を苦しめる女性のそれとまるきりおなじ、黄色と黒だった。


冒頭に「第八十一回を数える伝統の一戦」とあるので、この日本馬というのはマンハッタンカフェのことですね。

『始末書の書き方』では、私の好きな堀江作品『いつか王子駅で』(→感想)が誕生した経緯が分かって興味深いものでした。

他にも『古書店は驢馬に乗って』、『跨線橋のある駅舎 C線上のマッセナ』、『禿げた鼠と地球外生物』、『区役所精肉店』、『《ブンコボン》の棚』などなど。

結局挙げたらキリがないくらいお気に入りの散文が詰まった一冊です。

一階でも二階でもない夜 - 回送電車II (中公文庫)一階でも二階でもない夜 - 回送電車II (中公文庫)
堀江 敏幸

中央公論新社
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