江國さんの作品は好きで小説だけでなくエッセイなどもほとんど読んでいるのですが、そんな中でこの『神様のボート』はそれほど好きな小説ではありませんでした。だけど、今回何となく再読してみたら、前に読んだ時よりも好きになりました。

神様のボート (新潮文庫)

-どうして引越しばかりなの?
ママはあたしの髪に何度も唇をつけながら、
-ママも草子も、神様のボートにのってしまったから。
と言ったのだった。


『神様のボート』は、葉子と草子という母娘の話。二人は旅がらすで、一つの場所に留まらず、引越しを繰り返しています。
葉子は、かならず戻ってくると行って姿を消した男の言葉を信じて再会の時をひたすら待っている。その男というのが草子の父親なのですが、草子は父親の顔を知らずに育っていて、ただ葉子から見たこともない父の話を聞くだけ。
葉子が草子の父と恋に落ちた時、葉子には桃井先生という夫がいて、草子の父にも家庭があった。桃井先生は、葉子と草子のことを受け入れようとしてくれたのだけれど、葉子はまだ赤ん坊の草子を連れて桃井先生の元を去ることを決めます。その時、桃井先生が東京から出て行って欲しいという条件を出し、葉子はそれを承諾。
以来葉子と草子は東京を離れ、あちこちの町を転々としながら二人で暮らしている。

この小説は、葉子と草子、それぞれの視点から交互に描かれています。小学生の草子は葉子が一箇所に留まらず引越しばかりを繰り返すことに反発を覚えてはいるものの、大好きなママと一緒にいることが当然だと思っています。しかし、やがて高校生になろうとする草子は、パパとの再会を信じて疑わないママと同じ世界にいることが出来ず、一人神様のボートから降り、現実の世界に足を踏み出すことを決意します。

娘の草子が幼い子供から少しずつ大人へと成長していく中、いつまでも変わらずに思い出の中に留まっている葉子。最初にこの小説を読んだ時は、葉子のキャラクターがいかにも江國作品らしい少女っぽさの残った女性だという印象だけが残っていたのですが、今回再読してみて、ようやくあとがきにあった江國さんの言葉が分かった気がします。

小さな、しずかな物語ですが、これは狂気の物語です。そして、いままでに私の書いたもののうち、いちばん危険な小説だと思っています。


最初に読んだ時は単純にハッピーエンドだと思っていたのですが、今回はちょっと違う気がしました。どうも最初はサラッと表面だけを読んでいたのかもしれません。再読して良かった。葉子のキャラクターについては、前と同じでやはり好きにはなれないし、感情移入も出来ませんでしたが、江國さんの書く文章は私にはとても心地よいので、様々な言葉や表現がじわじわ染み込んでくる感じがしました。

神様のボート (新潮文庫)神様のボート (新潮文庫)
江國 香織

新潮社
売り上げランキング : 86921

Amazonで詳しく見る


「ロッド・スチュアートは私のおまもりだ。」という葉子。何だか私もロッド・スチュアートの歌が聴きたくなったので、唯一持っているアルバムを探し出して久しぶりに聴きました。


大学生の時に買った『ベスト・バラード・コレクション』。『神様のボート』で歌詞の一部が引用されている「When I Need You」も収録されてます。
スポンサーリンク
関連記事