秋だからというベタな理由で北村薫の『秋の花』を読みました。かなり久しぶりの再読です。

秋の花 (創元推理文庫)

『秋の花』は《円紫さんと私》シリーズの第三作。それまでの二作『空飛ぶ馬』、『夜の蝉』がほのぼのとした日常の謎解きミステリーだったのに対し、『秋の花』では女子高生が夜の学校の屋上から落ちて死ぬという、このシリーズとしてはショッキングな内容になっています。それに、前二作が短篇集であるのに対し、『秋の花』はシリーズ初の長編。

ある日主人公の《私》の家の郵便受けに高校の教科書のコピーが入っていた。アダム・スミスの『国富論』について書かれていることからしてどうやら政治経済の教科書の1ページのようで、その中の一語、“見えざる手”が赤いサインペンでマークしてあった・・・。

それをきっかけに《私》は、最近母校の女子高で起きた事件に関わるようになります。その女子高では文化祭の準備をしていた夜の校舎の屋上からある生徒が落ちて亡くなるという事件が起きたのですが、死んだのは《私》の家の近所の女の子で、《私》も知っている津田さんという子。津田さんの幼馴染で親友の和泉さんは、津田さんの死に深いショックを受け学校も休みがちになってしまう。

顔見知り程度ではあるけれど、二人を知る三つ年上の先輩の《私》に、救いを求めるかのように思える和泉さんの行動。津田さんはなぜ夜に一人で屋上にいたのか?自ら死を選んだのか、それとも・・・。

《私》は和泉さんや母校の先生、後輩たちに話を聞いてはみるものの真相には迫れず、お手上げ状態になり、最後には円紫さんに助けを求めるというこのシリーズお決まりのパターンで、《私》から事件の内容と《私》が集めた情報を聞いた円紫さんがあっさりと謎を解いてしまいます。

再読にも関わらず、円紫さんの口から事件の真相が明らかにされる件を読んだ時は、背筋が冷たくなりました。

ミステリー小説には、残虐で暴力的なシーンを繰り返すことで読者に恐怖を与えるようなものもありますが、北村さんの小説はそうではありません。この『秋の花』だって、《私》が大学の友人の正ちゃん、江美ちゃんと女子大生らしく楽しく過ごす日々が描かれていて、とてもほのぼのとしています。それでも、ラストのシーンは人の心の暗い闇の部分が浮かび上がっていて、それが怖くて、悲しいのです。

結末は知っていたのに、ラスト近くでは目頭が熱くなってしまいました。

秋の花 (創元推理文庫)秋の花 (創元推理文庫)
北村 薫

東京創元社
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ちなみにこのシリーズのカバーイラストを描いているのは、漫画家の高野文子さん。雰囲気のある素敵なイラストです。
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