中井英夫の『虚無への供物』を久しぶりに再読。

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫) 新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

最初に『虚無への供物』を読んでみたいと思ったのは、青木るえかのエッセイに『虚無への供物』のことが書いてあったのを読んで面白そうだと思ったから。その後もWEB本の雑誌の「作家の読書道」というコーナーで恩田陸さんが「中井英夫さんの『虚無への供物』は小学6年生で読んだのですが、今でも年1回は読みたくなりますね。」とおっしゃっていたり、同じく「作家の読書道」で三浦しをんさんも好きな作品として『虚無への供物』を挙げておられるのを目にしました。

『虚無への供物』は1964年に刊行された小説で、アンチ・ミステリーと呼ばれている作品。私の場合、恩田さんのように「年1回」というわけでなく、『虚無への供物』を読むのはこれが二度目で、しかも初めて読んでから5年くらい経っていたので、犯人もトリック(と言えるかどうか)もきれいさっぱり忘れていたので、初めて読んだかのように楽しむことが出来ました(笑)

物語の幕開けとなる舞台は“アラビク”というゲイバア。アリョーシャこと光田亜利夫、亜利夫の女友達の奈々村久生の二人はアラビクで、久生のファンだという東大受験を控えた高校生の藍ちゃんこと氷沼藍司がやって来るのを待っていた。

久生が藍ちゃんに会おうと思ったのは、自分のファンだからではなく藍ちゃんが氷沼家の人間だと聞いたから。氷沼家の人間はこれまで無残な死をとげていた。現在の氷沼家の当主は亜利夫の高校の後輩でもある氷沼蒼司で、氷沼家の人間は他に蒼司の弟・紅司、従兄弟の藍司、さらに叔父の橙二郎がいる。蒼司と紅司の両親と藍ちゃんの両親も洞爺丸の転覆事故で亡くなったばかりだった。

久生の婚約者で氷沼家の遠い親戚でもある牟礼田俊夫が海外から送ってきた手紙には「近いうち氷沼家には、必ず死神がさまよいだすだろう」、「もうじき帰国するから、それまで蒼司さんを守ってやって欲しい」とあった。推理小説好きで自分には探偵の才能があると勝手に思い込んでいる久生は、『ザ・ヒヌマ・マーダー』が実際に起こる前に犯人を見つけると豪語し、亜利夫にワトスン役を命じるのだったが、最初の悲劇が起きてしまう・・・。

アンチ・ミステリーであるこの小説を楽しむには、トリックがどうとかそういう事はひとまず置いておいて、この不思議で妖しげな世界とおかしな登場人物たちにどっぷりハマることが出来るかどうかがポイントになりそう。私も初めて『虚無への供物』を読み始めた時は、この小説の世界にいまいち入り込めない気がしたのですが、最初の事件が起きた後、久生と亜利夫、藍ちゃん、藤木田老(氷沼家のお目付け役みたいな人)の4人が集まって推理合戦をするあたりから、そのバカバカしさが何とも面白くてそこから一気にハマっちゃいました。それに藤木田老なんて、自分のことを「ミィ」って言うし、各キャラクターがとにかく濃いです。

また、久生、藤木田老、藍ちゃんは推理小説マニアで、さまざまな作品、例えばエドガー・アラン・ポーの『赤き死の仮面』、ディクスン・カーの『三つの棺』など古典的なミステリー小説のタイトルがちらほらと出てくるのも本好きにはたまりません。

再読だけど、最初に読んだ時よりもさらに面白く感じました。ただ、私も初めて読んだ時はそうでしたが、現代のきちんとした解答が用意されているミステリーを読むことに慣れていると、ちょっと戸惑うかもしれません。かなり好みが分かれちゃいそうな作品ではあります。しかし、これを小学6年生で読んだ恩田陸さんはすごいなぁ。

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