宮本輝は私が読書の魅力を知るきっかけとなった作家で、お気に入りの作品は何度も読み返しています。

星々の悲しみ (文春文庫)

短篇集の『星々の悲しみ』もそんなお気に入り作品のひとつ。表題作『星々の悲しみ』の他、『西瓜トラック』、『北病棟』、『火』、『小旗』、『蝶』、『不良馬場』と全部で7つの短篇が収録されています。

私が好きなのは表題作『星々の悲しみ』。主人公の志水靖高は大学入試に落ちて予備校に通い始めたばかりなのだが、ふと足を向けた図書館で偶然見かけた女子大生らしい女の子に惹かれて、話しかけるきっかけのつもりで「その本、もう読み終りますか?」と声をかける。先にどうぞと言われて思わず「ことし中に、あそこにある本を全部読むんですから」と言ってフランス文学とロシア文学のコーナーを指差し、それからは本当に予備校にも通わず小説を読み続けるようになる。

靖高は同じ予備校に通う有吉と草間と知り合い、靖高が高校生の時に通っていた喫茶店「じゃこう」に入る。「じゃこう」にある「星々の悲しみ」という題名の油絵を盗み出した3人はそのまま靖高の家へ。草間は靖高の妹加奈子を好きになるが、加奈子は二枚目の有吉を好きになる。

ある日、靖高は有吉が加奈子に小さな紙切れを渡すのを見る。草間の気持ちを知りながら、自信満々にそのような行動に出た有吉に対し靖高は嫌悪感を抱く。しかし、その有吉は腰の病気で入院してしまう・・・。

本来なら必死で勉強しなければならないはずの予備校生でありながら靖高は女の子と知り合うきっかけのつもりがいつしか本気でロシア文学とフランス文学に耽溺してしまいます。

勉強をしなければならないときがくると、きまってどうしようもなく小説を読みたくなったし、読書に疲れてくると、単語集や数字の参考書に心を移してしまうのである。つまりノルマから絶えず逃げていたい人間で、努力するための努力すら出来ない性格であるらしかった。


靖高は自分についてこのように分析するのですが、これはそのまま私にも当てはまる気がして、この部分を読むといつも「うーむ」と思わず唸ってしまいます(笑)

大学受験、そしてその先の将来に対して消えることのない不安を抱えながら、友人の死に直面する靖高。けれど、読後感はどこか爽やかで、何度読んでもいい青春小説。

靖高が加奈子と二人で「星々の悲しみ」を「じゃこう」に返しに行くシーンが印象に残ります。

他の短篇でいいと思うのは幼い頃、父親が従業員として雇い、一時ひとつ屋根の下に暮した男を電車の中で偶然見かけて思わず後を付けてしまう『火』、結核で入院した友人を見舞いながらも実は友人の妻と関係を持ってしまったという秘密を抱える男が病院を抜け出した友人と共に競馬場に向かう『不良馬場』の二篇。この二篇に限らず、どれもどこか暗い影が漂うような作品なので、好き!と言うのとは違う気がするのですが、読み始めるとグイグイ惹き付けられてしまうのです。宮本輝は短篇が上手いなぁ。

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宮本 輝

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文庫の表紙のイラストが私が持っているのとは変わってしまったのですね。個人的には前の方が繊細な感じで良かったと思うのですが・・・。
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