江國香織の『ホリー・ガーデン』を久しぶりに再読。前に読んだ時も、この小説好きだなぁと思ったけれど、再読してもやっぱりよかった。

ホリー・ガーデン (新潮文庫)

眼鏡屋で働く果歩と、美術教師の静枝。二人は幼なじみで親友。
果歩は5年ちかく前に別れた恋人津久井のことを忘れられずにいる。それは未練というのとは違っているのだけれど、とにかく津久井のこと、表情や着ていた服まで今でもはっきりと覚えている。
そんな果歩を心配する一方で新しい恋に踏み出そうとしない果歩にいら立ちを覚える静枝。静枝自身は、妻子のある男、芹沢と遠距離恋愛をしている。
果歩には恋人と呼べる存在はいないけれど、眼科医の柴原や、大学生のこうくんと時々デートをして寝たりしている。
果歩を一途に想う同僚の中野は、果歩をまるごとひっくるめて好きでいるのだけれど、そんなまっすぐな想いを受け止めてもらえず、かといってきっぱりと拒絶もされず、あいまいな関係を続けている。

私は果歩と静枝のどちらも苦手なタイプで、これが他の作家が書く小説の登場人物だったら、おそらく再読するほどその小説を気に入るということはないだろうと思います。やっぱり、江國さんの独特の文章が私には何とも言えず心地よいのです。
登場人物の中で私が魅力を感じるのは中野です。なんで果歩はあんなに中野に想われてすぐに心を揺さぶられなかったのかが不思議です。眼鏡屋の女子社員たちには陰で「忠犬さと公」(中野の名前が「さとる」だから)などと言われるほどに、本当に犬みたいに無邪気で、でも真剣で。果歩と静枝の間に時折生じる張り詰めた空気をほぐしてくれる存在が中野で、私も中野の登場する場面を読むとほんわかした気分になりました。

「中野くん?」
うしろで耳馴れた声がして、ふりむくと、果歩と背の高い女友達が立っていた。
「いつからいたの?はやくあがってくればよかったのに」
果歩の表情に迷惑の色は浮かんでいなかった。それを中野はずるいと思ったが、それでも同時に心からほっとした。自分にしっぽがついていなくてよかった、と思う。


それともう一人、静枝が学生時代に付き合っていた元恋人の祥之介。祥之介は結婚しているのだけれど、今は友人として静枝と付き合っている。友人だけれど、どこか特別な想いで静枝を見守っている祥之介がいいなぁと思います。

丸眼鏡の奥で目をほころばせ、祥之介はおもしろそうに話をきいていた。あいかわらずだ、と思う。静枝の、かりかりと怒った口調と勢いのいいため息。自分の耳に、その静枝の口調がどこかあたたかく、ため息―鼻息とため息との、ちょうど中間くらいのものなのだが―さえ微笑ましく感じられるのは、やはりただの欲目だろうかと祥之介は考える。



あとがきで、小説のなか(「愛の桃」という章)で果歩が読んでいる小説がジェイ・マキナニーの『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』だと紹介されていて、ちょっと興味を持ったのですが、どうやら絶版のよう。他に果歩が暗誦する尾形亀之助さんの詩も気になりました。前に読んだ時も気になったはずなのですが(笑)

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江國 香織

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