保坂和志の『プレーンソング』、『草の上の朝食』を読んだら猫つながりで浅暮三文の『嘘猫』を読み返したくなったので、本棚から引っ張り出して再読。これもお気に入りの一冊なのです。

嘘 猫 (光文社文庫)

猫はよく分からない。いるようでいて、いないし、いないようでいて、いる。それに嘘をつく。大きな嘘、小さな嘘、いろいろな嘘を。


こんな出だしで始まる『嘘猫』の主人公の「僕」は著者の浅暮三文本人。1984年、24歳だった僕は、コピーライターとして働くため上京、荻窪にある六畳一間の安下宿で一人暮らしを始める。

雨が降る梅雨時の日曜日、僕が部屋で原稿を書いていると窓の下で猫が鳴いていた。それは大きな肥った猫で、最初はちょっと雨宿りをさせてやるつもりで部屋の中に入れてやったのだが、結局一晩泊めてやることに。僕が布団に潜り込んで寝ようとすると、後日ミヤと名付けられるその肥った猫が布団の上に移動してくる・・・。

僕は腹の上の猫を布団の端に追いやりながら、しかし一方では奇妙な安堵感を感じていた。僕はうとうとする頭でその安堵の理由を探った。そして眠りに落ちる前に理解した。
今まで一年近く、たった一人しかいなかったこの部屋に、今は生物的には別種だが生きた存在がいる。それは体温をこちらに伝え、小さく呼吸し、なにより心臓が鼓動している。
自分の部屋に自分のものとは別に、もうひとつ心臓がある。ただそれだけのことが、とてもこちらを安らかにしてくれているのだ。僕はそれを理解した。そしてその晩、僕は奇妙な野良猫ミヤと眠りに落ちたのだった。


翌日ミヤを部屋から外に出し、別れを告げて出勤した僕が、会社から帰ってくるとまた窓の外で猫の鳴き声がした。結局僕は「メシだけだぞ」と言って再びミヤを部屋に入れるのだが、布団の上で横になっているはずのミヤが鳴きはじめる。よく聞くとそれはユニゾンコーラスになっていて、僕が布団の方を振り返ると、布団の上に奇妙な物体がいくつもごろごろしていた。それは、生まれたばかりの五匹の子猫だった。

こうして、僕は母猫のミヤと子猫のチロ、茶々、三番、カケフ、五番の六匹と六畳一間で一緒に生活するようになるのです。もともと犬派で実家ではずっと犬を飼っていたという僕がはじめて飼う猫に戸惑いながらも、子猫たちが日々成長していく様子を時に厳しく、時に温かく見守っていきます。僕と猫たちとの関係はベタベタしたものでなく、わりとさっぱりとしているのですが、それでいて互いの気持ちが通じているところがいい。

途中、いくつかの悲しい別れもありますが、思いがけない出来事を次々に僕のもとに運んでくる猫たちとの騒がしい日々がとても楽しく描かれていて、私はこの本を読む度に猫が飼いたいなぁって思ってしまいます。

浅暮さんの作品はこの『嘘猫』しか読んだことがないのですが、『ペートリ・ハイル!―あるいは妻を騙して釣りに行く方法』にはちょっと興味があります。文庫化されたら読んでみようかな。

嘘 猫 (光文社文庫)嘘 猫 (光文社文庫)
浅暮 三文

光文社
売り上げランキング : 880136

Amazonで詳しく見る
スポンサーリンク
関連記事