そろそろ好きな作家リストに入れないとなぁと思っている横山秀夫の小説『臨場』読みました。ドラマ化されて4月から放送が始まると知り、ドラマを観る前に原作を読んでおかなきゃ、なんて思って読んだのですが、これがまた面白かった!個人的には『第三の時効』の次に好きです。

警察組織でいう「臨場」とは、事件現場に臨み、初動捜査に当たること。

この『臨場』には、『赤い名刺』、『眼前の密室』、『鉢植えの女』、『餞』、『声』、『真夜中の調書』、『黒星』、『十七年蟬』の全八篇が収録されています。

L県警捜査一課調査官・倉石義男。体の線は槍のように細く、警察官というよりもむしろやくざのような風貌と物言い。鑑識畑一筋で、その検視の力量は歴代検視官の中でも図抜けている。上司には疎んじられる存在だが、部下には倉石を「校長」などと呼び慕う者が多い。L県警では五年以上同一ポストに留まることはないのだが、倉石は例外で警視に昇任して丸七年というもの検視官ポストを他に譲ってはいない。司法解剖を担当するL医大の教授が倉石を手放したがらないなどという噂もある。そんな倉石は『終身検視官』という異名を持つ。

主人公は倉石で間違いないのですが、それぞれの短篇の語り手となっているのは倉石ではありません。例えば、最初の『赤い名刺』では、倉石の下で検視担当の調査官心得をしている一ノ瀬が、『眼前の密室』では県民新聞の記者・相崎が語り手となっています。それぞれの語り手たちの目を通して『終身検視官』倉石の姿が浮かび上がってくるのです。

特に面白かったのは『赤い名刺』、『眼前の密室』、『黒星』の三篇。

若い女性が殺害される場面から始まる『赤い名刺』。アパートで若い女の首吊り死体が発見されたという電話を受けた一ノ瀬。詳細をファックスで送信してもらうと、そこには「相沢ゆかり」という一ノ瀬に見覚えのある名前が書かれていた。一ノ瀬は自分の組織での立場、家庭のことなどをめまぐるしく考えた。もしも、ゆかりが何者かに殺されたのだとしたら、捜査本部が置かれ大勢の刑事たちがゆかりの過去を暴きだすだろう。そうなれば、一ノ瀬の名前が浮かび上がるのも時間の問題だ。自殺に間違いない、自殺であって欲しい・・・祈るような思いで倉石と共に臨場した一ノ瀬が取った行動は・・・。

最初の一篇から、いきなり惹き込まれるストーリー展開。やっぱり横山秀夫の警察小説は面白い!そう思わせてくれる短篇でした。一ノ瀬が自らの保身に走るか、それともゆかりの無念を晴らしてやるのか、揺れる心が上手く描かれていたと思いますし、この作品である程度倉石がどのような人物なのかを知ることが出来ます。

『眼前の密室』では警察官ではなく地元新聞の記者、相崎靖之が語り手になっています。これは出だしが面白い。読者に勘違いさせようという作者のちょっとしたイタズラ心みたいなものが窺えます。

語り手は相崎ですが、ここでは相崎の上司の妻、智子が名探偵役を務めています。老婆殺しのネタを引き出そうと捜査第一課強行犯第四係長、大信田警部の官舎を車の中から張る相崎と智子。ところが、二人が見張っていたはずの官舎で大信田の妻が殺害された。官舎のすべてのドアと窓には内側から鍵が掛かった密室の状態だった。

とにかく、智子の目の付け所が鋭く、事件の重要な鍵となるポイントを次々指摘していきます。智子が冗談まじりに倉石と気が合いそうだなどと相崎に言っていますが、まるで女倉石のような眼力の鋭さです。

元婦警の町井春枝が車内に俳ガスをひきこんで死んでいるのが発見される『黒星』。春枝と同期だった小坂留美は、前夜春枝から久しぶりの電話を受けたばかりだった。特に落ち込んだ様子もなく、元気な様子だったのに、一体何故?現場の状況からは自殺と思われたのだが、『終身検視官』の倉石が下した判断は「殺し」だった・・・。

これはたった一月だけではあったが、かつて自分の下で働いた部下の春枝のために倉石がある行動を取るのですが、「なぜ?春枝のためになぜそこまで?」と問いかけた留美に対して、倉石が「部下だからだ」と一言答えるのがカッコイイ。実はこの『黒星』はラストが他の作品とは違う雰囲気で書かれていて、倉石の素顔をほんのちょっと知る事の出来るオマケのようなシーンになっていますが、そこも面白いです。

ちなみに「死体が泣いてるぜ」、「検視で拾えるものは根こそぎ拾ってやれ」など倉石には名台詞が多いです。

ただ悲惨な事件を描いているのではなく、人情も織り交ぜられているのが横山作品らしくて、どこかに救いがあってホッと出来るのがいい。

これで、ますますドラマに興味がわきました。原作では倉石の年齢は52歳となっていますが、ドラマで倉石を演じるのは内野聖陽さんなんですよね。

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