最近はピンと張り詰めた緊張感のある横山秀夫の警察小説を続けて読んだので、淡々と静かな堀江敏幸の世界に入り込めるかな?と思っていたのですが、いざ『おぱらばん』を読み始めると、言葉がじんわりと沁み込んできて、あー、やっぱり堀江敏幸好きだなぁと嬉しくなりました。

文庫化されて初めてこの『おぱらばん』を読んだのですが、ずーっと“おぱらばん”って一体何の事だろうと疑問に思っていました。その疑問は最初に収録されている表題作『おぱらばん』を読んでようやく解消することができました。

『おぱらばん』は、主人公の私が暮らすパリ郊外の宿舎の住人で、みなに「先生」とよばれている中国人と私との短い交流が描かれている。例によって、堀江敏幸のエッセイと小説のどちらとも言えないような心地よい曖昧さが漂う描き方がされています。

私は、先生のみならず宿舎に滞在する多くの中国人が、フランス語で《以前》という意味を持つ《AUPARAVANT》という単語を使うことに気付く。この単語は日常会話ではあまり使われないもの。そして、どうやら、この単語を使うのは宿舎の中国人だけでなくフランスにいる多くの中国人が使っているのだということを、テレビ番組をきっかけに知る。私は先生にどうして《おぱらばん》という単語を使うのか、と質問し、その答えを知る・・・。

その後、宿舎から姿を消した先生と偶然再会した私が先生に卓球に誘われるのですが、地下にある駐車場でかつて卓球少年だった私と先生が卓球の試合をする場面は、ほんの2~3ページだけですが、まるでスローモーションでその画が目に浮かぶように鮮やかに描かれています。宿舎での物静かな先生とは一変した躍動的な先生の、静と動という対照的な姿がとても印象的でした。

表題作以外にも印象深い作品が多い。作中にはちらほらと私が全く知らない海外作家や芸術家の名前が登場するのですが、そんなことはまるで問題にはならないくらい、とにかく私は堀江さんの書く文章が好きなので、読み終えるのが本当にもったいなくて少しずつ味わいながら読みました。

そして、また何でも影響されやすい私は『黄色い部屋の謎』を読んで、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』を読んでみたくなったり、『M』を読んで、フリッツ・ラングの映画『M』を観たくなったりしました。最後に収録されている『のぼりとのスナフキン』では、スナフキンについて語る場面でムーミン作品からの引用があるので、きちんと読んだことのないムーミン・シリーズを読んでみようかという気になってしまいました。ちなみに、堀江さんがシリーズの最高傑作だと思っているのは『ムーミン谷の十一月』だそうです。

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堀江 敏幸
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