あっという間に読んでしまいました。横山秀夫の『陰の季節』。

この『陰の季節』は表題作の他、『地の声』、『黒い線』、『鞄』の4篇を収録した短篇集です。

私がこの本を読む前に読んだ横山作品『第三の時効』と同じく地方の県警が舞台。この『陰の季節』ではD県警。また、それぞれの短篇で主役が変わるという設定も同じ。

最初に収録されている表題作『陰の季節』の主役は警察の人事を担う警務課の警務課調査官二渡真治。この二渡が主人公を務めるのは表題作のみですが、他の3篇全てにも脇役として出演しています。若くして警視に昇任し、周囲の人間には影で“エース”と呼ばれる存在。
そんな二渡がとある警察OBの思いがけない行動により窮地に立たされることになる。
人事と言っても現役の警察職員だけでなく、退官する職員の行き先、いわゆる天下り先を準備するのも二渡らの仕事となっている。3年前に退官した尾坂部元刑事部長が任期が切れるはずの現在のポストを辞めないと言い出したのだ。尾坂部が就いているポストには今年退官する人物をあてがう予定だったのに。一体なぜ尾坂部は急に辞めないなどと言い出したのか?
上の命令で尾坂部を説得することになった二渡だが、必死の説得にも尾坂部は耳を貸そうとはしない。二渡は尾坂部のことを調べるうちに、尾坂部が今のポストに執着する理由を突き止めるのだが・・・。

やっぱり読ませますね。事件の最前線で活躍する捜査官ではなく警務課の調査官が主役。解決すべき問題も警察内部で起きたもの。それでもこれだけ緊迫したムードになっているのは流石。ただ、私はこの表題作を読み終えた時点では、『第三の時効』を読んだ後だけに、この作品の中でとある過去の事件の犯人に迫ったその理由がちょっと弱い気がしてしまいました。

やはり初期の作品だからそのあたりは仕方ないのかも・・・と思ったのですが、その後に続く3篇には満足しました。結末が二転三転するあたりはかなりドキドキさせられます。私は特に『地の声』が面白かったです。

『地の声』の主役は監察課監察官の新堂隆義。監察課では警察職員の「賞罰」に関わる情報を調査する。新堂に任じられたのは、ある匿名の投書の真偽を調査すること。その投書の内容は、Q警察署の生活安全課長がパブのママとできており、ホテルで密会しているというもの。
Q警察署の生活安全課長といえば、新堂もかつて同じ所轄にいたことのある曽根だ。「そうね、そうねの曽根警部」。部下の誰もが曽根のことを指揮能力ゼロと吐き捨てる。今年五十五歳になる曽根は未だに警部のままだ。
密告は内部の人間によるものとみた新堂は、かつての部下で今はQ署刑事課にいる柳を使って曽根を密告しそうな人物を探し出そうとする・・・。

この『地の声』はこれで終わった・・・と思ったところでドンデン返しがある。それが人間の弱さを見せられてしまう、ちょっと切ない幕切れではあるのですが、やはり上手い!と思わされる結末でもありました。

他2篇は、ひったくり犯にそっくりな似顔絵を書いたお手柄婦警平野瑞穂がその翌日突如姿を消してしまう。婦警担当係長七尾友子が必死に平野を探す『黒い線』。警察への報復なのか、県議会で警察に関する質問“爆弾”を持っているという鵜飼県議の質問内容を警務部秘書課の柘植正樹が何とか探ろうと奮闘する『鞄』。
『鞄』もかなり意外な、そしてまたある意味ゾッとするような結末でした。

『黒い線』で失踪した婦警平野瑞穂が主役の作品『顔 FACE』もD県警シリーズとして既に文庫化もされているんですよね。これもそのうち読んでみたいです!

『陰の季節』の文庫の解説は私の好きな北上次郎さんが担当しています。

陰の季節 (文春文庫)
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横山 秀夫
文藝春秋
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