絲山秋子は好きな作家のひとり。芥川賞受賞作『沖で待つ』を文庫化を機にようやく読むことが出来ました。

『沖で待つ』には、表題作の他に36歳、現在無職で職安に通う主人公の恭子が、勤労感謝の日に気乗りしないお見合いをする羽目になる『勤労感謝の日』と、文学や政治の世界で活動し、「しいはらたい」という仲間がいる「しいはらぶんたろう」という、ある人物を彷彿とさせる男が主人公の『みなみのしまのぶんたろう』という短篇が収録されています。

さて、楽しみにしていた『沖で待つ』ですが・・・、私が今まで読んだ他の絲山作品に比べるとあまりインパクトがないような気がします。

主人公の及川は住宅設備機器メーカーに女性総合職として採用され、同期の太ちゃんこと牧原太と共に福岡に配属される。やがて太っちゃんは職場の先輩と結婚、及川は埼玉に転勤することに。その後太っちゃんが東京に転勤になり、二人は久しぶりに会って飲むことに。

そこで、太っちゃんは、家族や恋人に見られて一番やばいのはパソコンのハードディスク(HDD)だと言い、もしも死んだら、残ったやつが先に死んだ方のHDDを破壊するという協約を結ぼうと提案、及川もそれを承諾します。その時は、先に死ぬのは太っちゃんではなく、たぶん自分だろうなどと考えていたのですが、突然の事故で太っちゃんが死んでしまって・・・。

文庫の帯には「恋愛よりも強い、男女の信頼と友情。」とありますし、私も読む前からこの作品にはそういうイメージを抱いていたのですが、そこまで深い感じはなく、絲山作品らしいわりとあっさりとした感じだったと思います。個人的にはこの作品で受賞するのなら、『海の仙人』で受賞していてもよかったような気がします。

むしろインパクトがあったのは、最後に収録されていた『みなみのしまのぶんたろう』。ひらがなとカタカナだけで書かれているので、読みにくいし、内容的にも特に面白いという訳ではないのですが、主人公の「しいはらぶんたろう」のモデルはどう考えても、芥川賞選考委員の一人でもあり、都知事でもあるあの方なのではないのでしょうか。

だいにほんブンガクしょうの選考委員であるぶんたろうが、選考会で「どうしておれごのみのしょうせつがないんだ!」とか、「そもそもだいめいがきにくわんのだ!」、「みじかすぎてしょうせつとはおもえんな!」、「がいとうさくなしがだとうだっ!」などと叫ぶ場面があるのですが、もしかして絲山さんも過去の候補作に対してそう言われたのではないかと思ったりして(笑)

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