たとえ面白くても二度と読み返さない本もあれば、折に触れて読み返す本もあります。
私にとって武田百合子の『富士日記』は、後者。ふと読みたくなって、上・中・下、どの巻でもいいから適当に手に取り適当なページを開いて好きなところを読むのです。

もともとこの『富士日記』の存在を知ったのは数年前に雑誌『ダ・ヴィンチ』の何かの特集で紹介されているのを読んだのがきっかけでした。かなりうろ覚えですが、昭和40年代当時の物価などを知ることも出来る・・・というような説明があったように思います。それで興味を持って上・中・下巻の文庫3冊をまとめてアマゾンで注文したのですが、いざ本が届いた時は3冊ある文庫の1冊1冊の分厚さに驚きました。まさかこんなにボリュームたっぷりだとは。これが全部日記なんだよなぁ・・・、3冊全部飽きずに最後まで読めるかな・・・と3冊まとめて買ったことをちょっぴり後悔したりしました(笑)

著者の武田百合子が、夫で作家の武田泰淳、娘の花、愛犬ポコと過ごした富士にある山小屋での出来事を日記に記していたものが後に出版されたのがこの『富士日記』。そもそも人目に触れることを意識して書いていなかったからなのか、思ったことを飾らず素直に書いてあるので非常に面白いのです。本当に他人の日記をそっと読んでいるかのように感じるほどです。

その日一日どこに行って、何をして、誰と話して、何を買って、何を食べたか・・・ほとんどその繰り返しなのですが、なぜか全く飽きない。特に朝、昼、晩と食べたものが書いてあると、それだけでも興味をそそられてしまいます。例えば、昭和四十年十月二十四日、二十五日の二日間の献立だけ抜粋するとこんな感じ。

十月二十四日

朝 ごはん、ハムエッグ、味噌汁。
昼 ごはん、サンマ干物。
夜 トースト、カレースープ。

十月二十五日

朝 ごはん、ローストビーフ、おでんの残り。
昼 ごはん、白菜と豆腐とベーコンのお鍋。
夜 カレースープ、手製クッキー。


武田家は朝から結構ボリュームある食事だったりする。その代わり夜はあっさりだったり。もしかしたらこの時代にはご馳走なのかもしれないけれど、いたって普通の食事内容に親近感を覚えます。まあ、富士の山小屋にいる間は簡単な食事しか作らないからかもしれませんけど。

もちろん、『富士日記』の面白さは、単に食べ物に関する記述にあるだけではありません。富士の自然に恐れを抱いたり、その美しさに感動したりした感情を表した文章は時にはまるで詩のようで、思わずはっとさせられることも多々あります。

とにかく『富士日記』は、私にとってはこれからも何度も繰り返し読む本であるのは間違いないです。一生ものの本と考えれば、文庫にしては多少高い値段でも納得です。
武田百合子の本は『犬が星見た―ロシア旅行』も読みましたが、私は富士日記の方が好きです。『日日雑記』や『ことばの食卓』は未読なのでいずれ読んでみたいです。





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