藤原伊織の短篇集『雪が降る』の感想で、私の好きな短篇のひとつに挙げたのが『紅の樹』でした。『紅の樹』は、元ヤクザの堀江徹という男が主人公のハードボイルド。
『雪が降る』の黒川博行が書いた解説に「『てのひらの闇』はこの作品をもとにして書かれたのだろう。」とあったので、この『てのひらの闇』をいずれ読みたいと思っていました。

『てのひらの闇』の主人公はタイケイ飲料宣伝部課長の堀江雅之。しかし、経営状態が思わしくない会社は大規模な希望退職募集を進めていた。堀江にも部長の真田から声が掛かっており、しかもそれをあっさりと承諾していた。つまり堀江がタイケイ飲料の社員でいるのも残りあと僅かだった。

そんな時、タイケイ飲料の会長、石崎から呼び出された堀江と真田。二人は石崎が偶然撮影したというビデオ映像を見せられる。そこには、マンションの4、5階あたりのバルコニーから落ちる子供をある男が下で抱きとめて助けるという奇跡の救出劇が映っていた。石崎は、この映像をテレビCMとして使えないかと提案する。
しかし、再度一人でビデオ映像を見た堀江は、それが合成されたものだと気付き、CMには使えないと石崎に告げるのだが、その夜石崎は自殺してしまう・・・。

一体なぜ石崎がその合成映像をCMに使おうとしたのか。そして、なぜ石崎は自ら命を絶たなければならなかったのか。その真相を解明しようと堀江が一人奮闘するというのが大まかなあらすじ。

どうしてもうすぐ関係なくなる会社の会長の死の訳を堀江が知りたがるのかというと、堀江がタイケイ飲料に就職する事となった20年前の出来事にさかのぼるのですが、とにかく堀江と石崎にはちょっとした因縁があったので、会長と社員という関係ではなく、堀江は個人的に石崎の死の真相を知りたいと思ったのです。

『紅の樹』の主人公と同じ「堀江」という名字なのは、偶然ではないですよね。実は、設定もまるで同じで、この『てのひらの闇』の主人公堀江雅之も元ヤクザなのです。そして、石崎の死の真相に近付くにつれ、その周囲にはかつての同業者たちの影がちらつきはじめます。

ビデオ映像の謎、石崎の自殺など前半部分はかなり勢いにのって読むことが出来たのですが、中盤あたりは堀江が風邪の高熱でフラフラ・・・でも動き回る、そしてグッタリ。少し熱が下がりまた動き回ってぶり返すなどというややワンパターンな流れにちょっと退屈してしまいましたが、後半はアクションありで、また盛り上がりました。多少ラストが都合良過ぎた印象もありますが、続編『名残り火 (てのひらの闇 (2))』もありますし、こういう結末で仕方ないのかも。
その辺のちょっと不満な部分を補ってくれたのは堀江の部下の大原真理や、バーの店長ナミちゃんなどの魅力的な女性の登場人物でした。正直言って、堀江よりこの二人の方がかっこよかった。

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